むかしばなし 2
「いや、わたしはあの岳のアチャヤ姫に会わんといかん。行ってくるから。」
そして、三郎は茶屋を後にしました。
目的は鬼人ガ岳。
しかし、鬼人ガ岳は目の前に見えているようでもなかなか遠く、とうとう十三里も歩いてやっと岳の中腹にたどりつきました。
森の中に家があったので、三郎がのぞいて見ると、たいへんきれいな女が火をたいていました。
「ごめん下さい。」
すると、女がびっくりして見ました。
「わたしは鬼人ガ岳のアチャヤ姫という人を見にきたものですが、アチャヤ姫を知りませんか。」
「アチャヤ姫はわたしです。」
三郎がびっくりしてアチャヤ姫をまじまじと見ると、姫がきびしい口調でいいました。
「あなたはこんなところに来てはいのちが危い。私の父は人を食う鬼人です。早く帰って下さい。」
「いや、わたしはもどらん。あっちの山、こっちの山と何年もかかってあんたをたずねてきた。
せっかくこうして会えたのにすぐ帰るわけにはいかんよ。」
三郎はがんとして聞きいれず、いっこうに帰ろうとしないので、姫はしかたなく、その長い衣裳のすその下に三郎をかくしてくれました。
まもなく、山がごーっと鳴りひびいたかと思うと、恐ろしい形相の鬼人の父がもどってきました。
「きょうは鹿も猿も一つもかみださん日じゃ。」
父はこういって土間にはいってきましたが、三郎のワラジを見つけて、
「アチャヤ、だれか人がきたな」
といいました。
「いいえ、だれも来ません。」